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2009年3月 8日 (日)

一方法廷では・・・ BMWオラクル対アリンギの口頭弁論 (3)

ニューヨークを拠点として活動する弁護士、コリー・E・フリードマン氏がScuttlebuttへ寄稿したBMWオラクル対アリンギの口頭弁論に対する分析の2回目です。(1回目はこちら。

Scuttlebutt: Part 34 - Where were you on February 10th?

今回はBMWオラクル(ゴールデンゲート・ヨットクラブ:GGYC)代理人、マウリーン・マホーニー弁護士と判事たちのやりとりの後半、そしてアリンギ(ソシエテ・ノーティーク・ドゥ・ジュネーブ:SNG)代理人バリー・オストレイガー弁護士の弁論についてです。

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スミス判事は、かつてニューヨークの大手法律事務所で弁護士を勤め、また絶えず米国で五指に入ると評価されるコロンビア・ロースクールで教鞭をとっていた経験もある。かつてロースクールにおける教官の楽しみの一つに、学生たちをソクラテス哲学の手法に則って徹底的に責め続けるというものがあった。これは犠牲者たちが真理にたどり着くまで彼らの回答を正すことなく、難解な質問を浴びせ続けるというもので、学生たちは理論崩壊を起こして行き詰ってしまうことがしばしばであった。教授は正解を学生に授けず – これは学生たちが自力で導き出さねばならない – そして次なる不幸な犠牲者として別の学生を責め始めるのである。残念なことに学生たちは知的意欲を維持できなくなり、ゲームを放棄してしまうのだ。

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ニューヨーク州控訴裁判所 ロバート S. スミス判事

しかし、控訴審で争う弁護士はゲームを放棄することはできない – 何故ならこれが報酬を受ける術だから – だから弁護士たちはアヒルのように雁首並べて裁判官の前に座り続けねばならない。スミス判事は正に彼が求めていた回答をマホーニーから受け、とても満足げに見えた。実際、マホーニーはスミス判事が自身の理解を深めるのを助ける為、対話を繰り返しているかのようだった。スミス判事は自分が充分に下調べをし、決して弁護士たちに誤魔化されないことを示す為、かつて贈与証書の修正の引き金となったカナダのチャレンジャー“キャプテン・カスバート”について言及した。私の記憶する限り、”キャプテン・カスバート”は提出書類の中には出てきていない。

続いてしつこい質問をしたのは、元ニューヨーク州法務次官でもあるグラフィオ判事だった。彼女は贈与証書の意図するところを入念に下調べし、もし贈与証書の内容に異存のある者がいるなら、必ずその法的管掌者たるニューヨーク州裁判所へ問い合わせをすることを示唆しており、この点ではスミス判事も同じ立場を取っていた。チパリック判事はカップ贈与者の意図に関し質問し、マホーニーから納得いく回答を得た。即ち、マホーニーがキーとなる3つの文書について言及し、最初の文書に関して説明した後横道へ逸れかけたとき、チパリック判事は残る2つの文書について質問した。リード判事は幾つかのポイントについて明確な説明を求め、同じく回答を得た。ピゴット判事は「キール・ヨット」の定義に関し、誰がこういった案件について判断を下すべきか質問したが、マホーニーは贈与証書の文言に立ち戻り、ニューヨーク州裁判所の判断を仰ぐべきだと即答した。ジョーンズ判事は終始沈黙を守り、裁判全体の流れをみているかのようだった。

バリー・オストレイガー(ソシエテ・ノーティーク・ドゥ・ジュネーブ代理人)のアプローチは全く異なっていて、それは法廷の流れからすると幾分的外れなものだった。はじめ彼の話し方はマホーニーと比べるとゆっくりしたもので、法的な決まり文句や“カップは水上でこそ争われるべきだ”というお題目を唱え始めた。ピゴット判事が“ニューヨーク・ヤンキース・ヨットクラブ”というものがある日突然結成されカップ挑戦を表明したらこれを認めるのかという、これまたやや的外れな質問をしたが、オストレイガーはくどくどした答弁をした挙句、結局スミス判事に「イエスかノーかどっちなんだ」と遮られ、「イエスです」という単純な回答しかできなかった。

続いてオストレイガーはかつてカナダからの挑戦者に対して問われた”海上航海適応性 “という問題を持ち出してきたが、これは明らかに失敗だった。即ち、”キャプテン・カスバート“の例をみても”海上航海適応性“は何ら問題とならなかったことは、アメリカスカップの歴史を紐解けばどの判事にもわかることだからである。(註: 贈与証書(修正後)にはカップ挑戦者の要件として「海上または海に通ずる入り江(arm)で年次レガッタを開催するヨットクラブであること」と記されている。この文言をそのまま取ると挑戦者は恒常的に”海上で”帆走を行うヨットクラブでなければならず、例えばスイス・レマン湖を拠点とするアリンギなどは挑戦者としての要件を満たしていなかったことになるが、現実には問題とされなかった。)ある判事は、あなたが問題としているのは”経験“なのか、それとも”海上航海適応性“自体なのかと、オストレイガーの趣旨に疑問を呈しながら尋ねた。

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ソシエテ・ノーティーク・ドゥ・ジュネーブ代理人 バリー・オストレイガー弁護士

追い詰められたオストレイガーは、公平な競技の開催はカップ防衛者側がその信用をかけて守るべき責務である – 彼は大げさに言いすぎだが – と述べ、これに異論を唱えている者は一切ないと大見得を切った。これは正しい。なぜならゴールデンゲート・ヨットクラブ(GGYC)がこれに異論を唱えることをあきらめ、法廷で争う道を選択したから、結果として他に異論を唱えるものがいなくなったのだ。このオストレイガーの弁論はスミス判事に火をつけたようだった。即ち彼は、それは防衛者の言いなりとなる挑戦者だけを集めた談合イベントなのではないのかと攻撃を始めた。彼は1000ワットで輝く鋭い眼光と適度な皮肉をもって、異論を唱える者は誰もなく、全て円満に進んでいるようにみえるかもしれないが、もし裁判所がソシエテ・ノーティーク・ドゥ・ジュネーブ(SNG)の主張を認めた場合、一体どうやってこういう談合まがいの競技開催を避けることができるのかとオストレイガーに問いただした。

スミス判事の質問に特別な意図はなかったかも知れない。しかし、現代のようなインターネット社会において、弁護士が世論の反発を受けるか受けないかギリギリの大見得を切ることは危険であると言われている。一旦口頭弁論が終わると弁護士たちの主張は公判録に載るだけだが、判事や書記官たちはその後も自由にネットをサーフィンし世論をチェックできる。このような法廷外でのネットサーフィンの結果、裁判所側の心象が著しく悪くなっていたとしても、弁護士側は全く知りようがない。そして次回出廷したとき、自分がすでに死んでいることを知るのである。

ここまでのところ、スミス判事はオストレイガーを物分りの悪い学生のように扱っていた。そしてグラフィオ判事は挑戦者が責任を放棄できるかどうかを単純に尋ねた。ピゴット判事は、もしGGYCが勝訴した場合多数の挑戦者が参加するイベントは中止されてしまうのかという、いわばオストレイガーにとって助け舟ともいえる質問を投げかけた。オストレイガーはこれに飛びつくと、判事たちが全く聞きたくもないようなラリー・エリソンに対する個人攻撃を始めた。判事たちは贈与証書が何を求めているかを知りたかったのであり、グラフィオ判事が示唆したように、もし証書の内容に異存がある場合は管掌機関であるニューヨーク州裁判所の判断を仰ぐべきなのである。係争相手に対する個人攻撃といった低レベルな行動はここでは慎まれなければならない。ここはニューヨーク州の法律を司る法廷であり、個人的な喧嘩をする場所ではないのだ。

もうひとつ気になった点は、チパリック判事が、GGYCに対しても多数の挑戦者が参加するイベントへ参加する道は開かれているかと尋ねたときのことだ。これに対しオストレイガーは「和解の道も残されていると思う」と答えたが、アリンギのウェブサイトを見る限り、これは適当な方便か或いは嘘にすら聞こえる。オストレイガーはチパリック判事から「もう座りなさい」を意味する「サンキュー」の声が掛かってもスピーチを止めず、最後までしゃべり通して弁論を終えた。

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何かにつけてオストレイガー弁護士は、既に世界中から19チームが次回アメリカスカップへエントリーしており、BMWオラクルの提訴はそれを台無しにしようとしていると繰り返すばかりで、素人目に見ても贈与証書の要件を議論しようとしている判事団と何だかかみ合っていないように見えました。

さて、この後は現段階で挑戦者代表に座っているデサフィオ・エスパニョール(クルブ・ナウティコ・エスパニョール・デ・ベラ: CNEV)の代理人、デイビッド・リブキン弁護士の弁論、そして最後に再びBMWオラクルの代理人、マウリーン・マホーニー弁護士の抗弁と続きますが、今日はここまで。

つづきはこちら

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