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2009年10月 7日 (水)

BMWオラクル、中東でのアメリカスカップ開催を拒否。

米国時間の10月1日、次回アメリカスカップの挑戦者として認定されているゴールデンゲート・ヨットクラブ(GGYC)と同クラブに所属するBMWオラクルレーシングは、カップ防衛者ソシエテ・ノーティーク・ドゥ・ジュネーブ(SNG)と同クラブに所属するアリンギが選定した中東ラアス・アル・ハイマは開催地として不適格であり、SNGに撤回を求める訴えをニューヨーク州最高裁に行いました。

GGYC: GGYC will not consent to SNG's choice of an illegitimate and unsage venue

上記声明の中でGGYCは、ラアス・アル・ハイマが開催地として不適格である理由を以下の如く述べています。

  • 贈与証書の規定により、GGYCが合意しない限り、SNGは北半球を開催地として選定できない。
  • ただし、2009年4月7日付の裁判所指令により、唯一例外として認められるのはバレンシアである。
  • 念のためBMWオラクルは現地調査を実施したが、インフラ・治安・風に問題があり、アメリカスカップの開催地として不適格である。
  • SNGが提案しているレース海域は、アラブ首長国連邦(UAE)に対しテロ行為を行っているイランが実効支配している諸島から17マイル以内であり、同連邦に属するラアス・アル・ハイマでのアメリカスカップ開催には治安上の問題がある。

これに対し、10月2日アリンギはブラッド・バタワースの名前で以下の声明を発表しています。

Alinghi: Statement from Brad Butterworth, four-time America’s Cup winner and skipper of Alinghi

  • ラリー・エリソン、ラッセル・クーツとGGYCは、7度に渡る提訴を通し、法廷でアメリカスカップを勝ち取ろうとしている。
  • (NY州最高裁の)カーン判事が2008年に下した判決によれば、開催地は「バレンシア、或いはSNGが選ぶ如何なる地域」とされている。
  • UAEの治安に関して言えば、タイガー・ウッズやロジャー・フェデラーはおろか、ラッセル・クーツでさえ毎年現地で競技に参加しているではないか。
  • 今回の提訴は、水上でカップを争うことを避けようとするラリー・エリソンとBMWオラクルの企みである。

さて、今回の提訴に先立つ9月初旬GGYC側は、BMWオラクルレーシングCEOのラッセル・クーツ自身がラアス・アル・ハイマ入りして現地調査を行っています。

Gulf News: BMW Oracle on RAK reconnaissance

ちなみに余談ですが、クーツは中東からの帰りジェノヴァへ寄り、アリンギ5のテストの模様を自ら偵察しています。

Zerogradinord.it: Russell Coutts is in Genova

しかもアリンギに見つかってしまい、ウェブサイトの"ネタ"にされてしまいました(笑)。

Alinghi: "Spotted": Russell Coutts in Genoa!

余談はさておき、GGYCの説明によれば、この現地調査の結果、今回の提訴に至ったと言うことです。

では、一体ラアス・アル・ハイマとはどんなところか?

これに関しては、ニュージーランドのTVNZが現地取材を敢行していますのでご参照ください。

TVNZ One Sport: New legal war facing America's Cup

Rak_ac_island

(上の画像はハメコミなので、動画は上記リンクをご覧ください)

この映像を見る限り、ペンペン草ひとつ生えていない島にアリンギ用のテントがポツンと建っているだけで、本当にこんな所でやるのか??という印象を受けます。いまから本当に下のような環境が整うんでしょうか?

一方今回インフラも治安も風も悪いとボロクソに言われたラアス・アル・ハイマ側ですが、可哀想なことに相当ショックを受けているそうで、必死にイメージ回復を図ろうとしており、BMWオラクルとも直接協議を持ちたいとしています。

TheNational: RAK meeting to reassure BMW Oracle

しかし、SNGが8月にラアス・アル・ハイマでの開催を発表しているにも拘らず、何故GGYCがこのタイミングで意義を唱えたのか?

先にお伝えしたとおり、アリンギは9月末に防衛艇「アリンギ5」をラアス・アル・ハイマへ出荷し、10月5日現地に到着しています。私には、オラクルはこのタイミングを狙っていたように思えるのです。

さて、それぞれの思惑や言い分はともかくとして、開催地の選定は再びニューヨーク州最高裁の手に委ねられることとなりました。その結果を占うには、まずラアス・アル・ハイマが贈与証書の要件に合致しているかどうかを考える必要があります。

贈与証書は、開催地に関し以下の如く規定しています。

"The Challenging Club shall give ten months' notice, in writing, naming the days for the proposed races; but no race shall be sailed in the days intervening between November 1st and May 1st if the races are to conducted in the Northern Hemisphere; and no race shall be sailed in the days intervening between May 1st and November 1st if the races are to be conducted in the Southern Hemisphere."

「挑戦するクラブは、レース開催の10ヶ月前までに書面によってレース日程を申し入れなければならない。ただし、11月1日から5月1日までの間北半球でレースを行ってはならず、また5月1日から11月1日までの間南半球でレースを行ってはならない。」

従って、この文言をそのまま採れば、GGYCが合意しない限り、2月に北半球で開催することは不可能です。(贈与証書には防衛者と挑戦者が合意した場合のみ、規定を自由に変更してよいと記されています。)

しかし、事態をややこしくしているのは、2008年5月12日に同裁判所のハーマン・カーン判事(当時)がSNG、GGYC双方に対し下した指令です。この中でカーン判事は10ヶ月以内に対戦を行うことを指示すると同時に、開催地に関して以下の指示を出しています。

"the location of the match shall be in Valencia, Spain or any other location selected by SNG,"

「対戦地はスペイン・バレンシアか、或いはSNGによって選定された如何なる場所とする」

その後SNGが控訴したことにより、この2008年5月12日付カーン指令は一旦保留されていましたが、最終審でGGYCが勝訴したことにより、2009年4月7日付で復活しています。

この指令の中で謳われている"any other location"というのが、贈与証書の範囲内か否かが争点となっているのです。言い換えれば、判事指令がアメリカスカップの憲法である贈与証書を超越し得るか否かとも言えます。

控訴審の間にハーマン・カーン判事は退職してしまい、現在はシャーリー・コーンライヒ女史がアメリカスカップの担当判事となっています。判決の行方を占うには、これまでコーンライヒ判事がどのような判断を下してきたかを考える必要があります。

特に注目すべきは、エンジン搭載の可否について下した決定でしょう。このときコーンライヒ判事は、贈与証書には「帆で推進すること」が規定されているのみで、推進力として使用しない限り贈与証書に違反しないとの判断を下しました。従って、基本的に贈与証書を尊重する姿勢をとっていると言えるでしょう。

その一方で、オラクルに対しスポーツマンらしからぬと判決文の中で非難したり、アリンギに対しても船舶登録証なんかで挑戦者を失格にしようとするなと咎めたり、とにかくさっさと海上で決着をつけなさい!というような、ちゃきちゃきした一面も伺えます。従って、是非はともかくアリンギが着々と準備を進めている開催地を、今から白紙に戻させるような判決を下すかどうか・・・

正直言って、どちらもあり得そうで、何とも読めません。

今回の提訴に対する口頭弁論は10月最終週に行われる予定です。果たしてコーンライヒ判事が如何なる裁きをみせるか、楽しみにしておきましょう。

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