« 限界までプッシュしろ! | トップページ | 「BOR 90」のリーチカーブ »

2009年11月25日 (水)

ウィングセイルの技術解説

さて、またまた今日もBMWオラクルの挑戦艇「BOR 90」の話題です。

イギリスのタイムズ紙に「BOR 90」のウィングセイルに関する解説記事が掲載されましたので、ご紹介します。

TIMESONLINE: Monster sail takes wing in America's Cup storm-force controversy

Ttsthemonster2

Copyright: Graham Hughes/TimesOnLine

この記事によると、

  • ウィングセイルの面積は625㎡: 世界最大の旅客機エアバスA380の主翼より大きい(イラスト右上にスクーナー「アメリカ」、AC艇「SUI-100」、「BOR 90」、エアバスA380の比較図あり)
  • 風速10ノットで艇速30ノットを実現可能(風速の3倍)。
  • ウィングフレーム: カーボンファイバー/ケブラーの複合材
  • ウィング外皮: 収縮性のある航空機用フィルム素材
  • ウィング構成: 一体型メインウィング + 8枚の大型フラップ
  • ウィング重量: 約3.5トン(とんべえ註:フルバテンソフトセイル + マスト/ブームより軽いという情報もあります。)
  • メインウィング: マスト基部のボールピボットにより角度(迎角/垂直角)調整可能。
  • フラップ: 8枚個別に角度調整可能。
  • メインウィング/フラップを個別に調整することにより、航空機の主翼と同様で、ソフトセイルよりも高い揚力効率を得られる。
  • 巨大なウィングを支えるステイは100トンの荷重に耐えられるよう設計。
  • 100以上のセンサーからの情報はオンボードコンピュータで集中管理され、必要な情報はゴーグルを介してヘルムスマンへ伝達される。
  • ウィングの制作費: 500万ドル(約5億円)以上。
  • ラリー・エリソンが今回の挑戦に注ぎ込んだ金額: 1億ドル以上(約100億円)。月平均4億円以上のペース。

ということで、正にハイテクボートです。

この記事を見ると、8枚のフラップを個別に操ることによって、きめ細かいリーチコントロールが可能なようです。風向・風速・艇速に合わせセクションごとにフラップで調整ができるということは、ソフトセイルに無いアドバンテージでといえるしょう。

ただし、これだけ巨大なセイルとなると流速分布の影響は左程大きくなくないのではないかと思ったりします。しかし、マストトップ付近は20階建てビルと同じ程度の高さなので、実際にどうなのかちょっと想像つきません。また一旦走り出してしまうと艇速が余りに速い為、最高速付近では各フラップの角度もほぼ同じになるのかもしれません。

ともかく感覚としては、1枚クロスで構成されているハンググライダーの翼と、立体的構造を有しフラップ/エルロンといった補助翼をもつ航空機の翼との違いと同じ位、ソフトセイルとのテクノロジーの差を感じます。

さて、昨日のサンディエゴは非常に穏やかな天候で、「BOR 90」も風待ちの為、出港が遅くなりましたが、その分日没までたっぷりとテストを続行しました。それらの情報は、チームの公式ブログ並びにセーリング・アナーキーのACフォーラムでもレポートされています。

BMW ORACLE Racing Blog: Sunrise to sunset

また、米国時間の今日11月25日は、次回アメリカスカップの開催地を巡りニューヨーク州最高裁判所の上訴部でソシエテ・ノーティーク・ドゥ・ジュネーブ(SNG:アリンギの所属母体)とゴールデンゲート・ヨットクラブ(GGYC:BMWオラクルの所属母体)による口頭弁論が行われる予定となっています。

この控訴審でSNG/アリンギ側の主張が認められれば、中東ラアス・アル・ハイマが再び開催地として認定されることになります。今日の口頭弁論を受けた判決は12月中に出されることになっていますが、果たしてどうなりますか・・・

一方、ほぼ1年半に渡りサンディエゴのセーリングファンを楽しませてくれたBMWオラクルレーシングと「BOR 90」は、今週一杯でテストを終了。上記控訴審の判決を待たずして、サンディエゴのベースを引き払い、次回アメリカスカップの開催地へ移動するということです。

San Diego Union Tribune: 'Incredible' BMW Oracle ships out of our bay

「BOR 90」の旅立ちを伝える地元紙サンディエゴ・ユニオン・トリビューンの記事の中で、ラッセル・クーツが次回アメリカスカップの展望を語っていますので、その部分だけお伝えします。

---------------------------------

「恐らく歴史に残るレースになるだろう。」 BMWオラクルのスキッパー、ラッセル・クーツ - そう、1995年にサンディエゴからアメリカスカップを持ち去ったスキッパーだ - は、先週の土曜日こう語った。

「アリンギとオラクルの2艇の対決は、本当に見所満載だよ。泥沼の法廷闘争は間違いなくアメリカスカップに対する人々の興味を失う結果となったけど、それでも防衛艇と挑戦艇の双方が帆走を開始した途端、そのテクノロジーに大きな注目が集まりはじめている。」

今回の対決は、デニス・コナーのカタマランとマイケル・フェイのモノハルが対決し、カタマランが勝利した1988年のアメリカスカップより、ずっと良いレースとなるだろう。

「これはテクノロジーの闘いなんだ。」

来るべき対戦に関し、クーツは次のように語った。

「速いボートが勝つ。本来アメリカスカップというものは、資金や時間、人材、そしてテクノロジーを最も上手く使った者が勝ち取るべきものなんだ。これはテクノロジーの闘いだよ。本当に面白い対決になると思うよ。」

その一方で、クーツはアリンギを見くびってはいけないと警告している。

「我々はアリンギに対し大きな敬意を払っている。」

アリンギがニュージーランドからアメリカスカップを奪った際、スキッパーを務めていたクーツは語った。

「アリンギのトップにいる連中の行動が、決して尊敬できるものではないと思っているだけなんだ。あんなに素晴らしいチームを持っているのにも関わらず、連中ときたら困ったことに、自分に有利なルール作りに躍起になっているのだから。」

BMWオラクルの「BOR 90 (近く"USA"に改称される)」とアリンギの「アリンギ5」の対戦は非常に興味深い一戦となるはずだが、どちらが勝つにしても、今回のような巨大マルチハルでの対決は今回限りになるとクーツは考えている。

「どっちが勝つにせよ、過去3年間の出来事を教訓にできないようなら、大バカモンだよ。アメリカスカップの行く末は、多くの人たちが待ち望んでいる方向に修正されなければならない。もしそれが出来ないようなら、お終いだよ。カップは10から15チームで争われるべきなんだ。でも、こんなボートでは、そんな参加数は到底望めないよ。」

BMWオラクルのスポークスマン、トム・イーマンは次のように語った。

「このようなアメリカスカップは、今回限りでしょう。現状に対し、多くの人がフラストレーションを感じ、また混乱しています。その一方で、このウィングは人々の興味をアメリカスカップに引き戻す"マジック"みないなものといえます。決して退屈なレースにはならないでしょう。」

もしかすると今回のアメリカスカップは、サンディエゴが再び世界的イベントの会場として登場する契機となるかもしれない。

BMWオラクルのボス、ラリー・エリソンと彼のチームは、ここでの滞在を大いに楽しんだ。その結果、将来サンディエゴはアメリカスカップを闘うチームの半永久的なトレーニングベースとなる可能性もある。

さらに、エリソンが勝者となった場合、1988年から1995年に掛け3度に渡りアメリカスカップの会場となったサンディエゴは、ルイヴィトン主催の下、次々回のアメリカスカップへ向け新しいアメリカスカップクラス艇を使用して開催されるであろうサーキットツアーの開催地として選ばれるかもしれないのだ。

-----------------------------

度重なる改造に予期せぬトラブルと、この一年半まるでわが子の成長を見るかのごとく、「BOR 90」にはとても楽しませてもらいました。サンディエゴから去ってしまうのは残念ですが、次は是非とも晴れ舞台での活躍をこの目で見てみたいと思います。

ちなみに先日ブログ主とんべえは、チームがサンディエゴを去る前に是非ベースを取材させて欲しいと、BMWオラクルの広報担当にコンタクトをとりましたが、やんわりと断られてしまいましたhappy01

うーん、残念・・・

|

« 限界までプッシュしろ! | トップページ | 「BOR 90」のリーチカーブ »

コメント

やはり上から下までBMORファッション、頭には日の丸鉢巻で体当たりで、ぜひ再度体当たりして・・・(笑)

投稿: まなてぃ | 2009年11月25日 (水) 20時10分

いやぁ、「いつもBMWオラクルを応援してくれてありがとう。でも、外から見る分には自由だから、いつでもどうぞ・・・」と言われてしまいました(笑)

ともかく、近々行って来ようと思っています。

投稿: とんべえ | 2009年11月26日 (木) 06時41分

しかし、ソフトセールより軽いとは。。
やはり余計なテンションに耐える為に思ってるより無駄に出来てるんですかねぇ

投稿: まなてぃ | 2009年11月27日 (金) 08時19分

まなてぃさん、いつもコメントありがとうございます。

「アリンギ5」も「BOR 90」も、ロールアップしたセイルは人手で運んでいるので(数人がかりですが)、多分何トンもある代物ではなく、むしろソフトセイル用のマストがかなり重いのではないかと私は想像しています。

ソフトセイルの場合、風をはらむことによってセイルシェイプを形成しますので、そこには揚力と共に抗力が発生します。(フルバテンセイルなので、多少マシとは思いますが)

一方ハードウィングの場合元々形が付いており、文字通り風を"流す"ことができるので、抗力はソフトセイルより小さいはずです(ウィングセイルの方が効率が良いとされる由縁)。

そのため、ウィングマストはその形状から非常に重厚に見えますが構造的には意外と華奢で、逆にソフトセイル用のマストは巨大なセイルエリアに掛かる全抗力を支える必要がある為、肉厚のあるカーボン素材で出来ていて、実は重いのかもしれません。

だから、前回折れたカーボンマストが10億円で、今回のウィングマストは5億円なのかな~と想像していますが、どうでしょう?

投稿: とんべえ | 2009年11月28日 (土) 03時12分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/185045/46861006

この記事へのトラックバック一覧です: ウィングセイルの技術解説:

« 限界までプッシュしろ! | トップページ | 「BOR 90」のリーチカーブ »