« シャーリー・ロバートソン、「BOR 90」に乗る。 | トップページ | Merry Christmas! »

2009年12月23日 (水)

お前んとこのボートはルール違反じゃ - GGYCからSNGへの質問状

※この記事は2009年12月23日段階の情報であり、アメリカスカップの最新情報に関しては、当ブログのトップページ、或いは左に記載されている最近の記事をご覧ください(2010年1月追記)

-----------------------------

来年2月に開催される第33回アメリカスカップの挑戦者、ゴールデンゲート・ヨットクラブ(GGYC:BMWオラクルの所属母体)は、カップの保持者ソシエテ・ノーティーク・ドゥ・ジュネーブ(SNG:アリンギの所属母体)に対し、会長マーカス・ヤング名義の公開質問状を送付しました。

GGYC: GGYC-SNG Letter re: Constructed in Country Dated: Dec 22, 2009

Ggycsngdec09

この書簡の中で、GGYCはSNGに対し

  • SNGがISAFと交わした"密約"を撤回し、新たにISAF主導によるジュリーを任命するに至ったことは喜ばしいことである。
  • 一方で我々は、貴クラブの代表であるアリンギの防衛艇が「使用される舟艇は出場国で建造されなければならない」と規定した「贈与証書」に違反しているのではないかという疑念を持っている。
  • 我々の得た情報によると、「アリンギ5」が使用しているセイルはアメリカ・ネバダ州ミンデンで製造されたものであり、これは上記「贈与証書」の要件に違反している。
  • ついては、大会の遅延や終了後の係争を避けるため、貴クラブの見解を5日以内に示されたい。

という主旨を通達しています。

これに対し、SNGも以下のコメントをアリンギの公式サイトで発表しています。

Alinghi: Statement from Société Nautique de Genève

  • SNGとアリンギは、GGYCとBMWオラクルからのクリスマスプレゼントと更なる訴訟を目指した新年の挨拶に感謝する。
  • 防衛艇に対するBMWオラクルの主張は全く誤りである。
  • セイルも含め、防衛艇は全てスイス製である。
  • ラリー・エリソンのチームは裁判を通じて他の挑戦者を排除した上に、今度はその矛先を防衛者へ向け、法廷でアメリカスカップを勝ち取ろうとしている。(SNG副会長フレッド・メイヤー)
  • 我々は、これが2月8日にアリンギと闘うことを避けようとするBMWオラクルの企みであると恐れている。(アリンギ デザインチーム コーディネーター グラント・シマー)

さて、「贈与証書」の全文は、2009年8月10日付の当ブログでご紹介していますので、もう一度おさらいして見ましょう。

かぜのたより アメリカズカップ情報編: "贈与証書(Deed of Gift)"とは?(1)

挑戦を表明するヨットクラブの資格、並びに対戦に使用される舟艇の条件に関しては、第4パラグラフに記載されています。(そもそもこの「ヨットクラブの資格」が、2年半に渡る法廷闘争の原因となったのですが・・・)

-------------------------------

Any organized Yacht Club of a foreign country, incorporated, patented, or licensed by the legislature, admiralty, or other executive department, having for its annual regatta on ocean water course on the sea, or on an arm of the sea, or one which combines both, shall always be entitled to the right of sailing a match for this Cup, with a yacht or vessel propelled by sails only and constructed in the country to which the Challenging Club belongs, against any one yacht or vessel constructed in the country of the Club holding the Cup.

立法機関、海事法、或いはその他行政機関により設立され、許可され、或いは免許の交付を受け、海上或いは海につながる入り江、またはその双方にまたがる洋上コースにおいて年次レガッタを開催している外国の組織化されたヨットクラブであるならば、その挑戦するクラブが属する国で製造されたヨット或いは帆のみによって推進される船舶を使用し、カップを保持しているクラブの国で製造されたヨット或いは船舶に対し、このカップをかけての帆走対戦に挑む権利がいつでも与えられるものとする。

-------------------------------

このように、挑戦艇・防衛艇ともに双方のヨットクラブが属する国で建造されることが明確に求められています。

これに対し、今回GGYC/BMWオラクルは、「アリンギ5」がアメリカ・ネバダ州で製造されたセイル、即ちノースセールのネバダロフトで製造された「3DL」を使用している点にクレームをつけているわけです。

モールド工法で製造されるシームレスセイル「3DL」は、もはやアメリカスカップ艇にとって定番であり、ノースセールのネバダロフトで製造されていることは周知の事実です。また、たとえ製造場所はネバダであっても、セイルの形状自体は各顧客の仕様に合わせて製造されています。従って、今回のGGYC/BMWオラクルのクレームは、何を今さら・・・という印象すら受けます。

これに関し、おなじみSailWorldのグラドエル記者が解説記事を寄稿しています。

SailWorld.com: Challenger initiates Construction Origin issue

この記事の中でグラドエル記者は、

  • この贈与証書の規定に対し、(130年に渡りカップを保持していた)ニューヨークヨットクラブは、1958年「その国で設計され、且つ建造(製造)されたということを意味する」という見解を出している。
  • これに対し現カップ保持者であるSNGの見解は、「各パーツは外国製であっても、最終組立てが出場国であれば良い」というものである。(「3DL」の基本コンポーネントがネバダで製造されたとしても、最終的な仕上作業が出場国でなされるなら良い)
  • 皮肉にも「3DL」のコンセプトは、スイスで編み出された物である。
  • 一方GGYCの見解は、1960年代に挑戦艇のセイルクロスの原産国が問題となった経緯があり、また近年においては防衛者と挑戦者の相互同意により米国産セイルクロスの使用が容認されてきた経緯があるが、それでも挑戦者/防衛者ともに外国のロフトで製造されたセイルは使用できないというものである。
  • 製造業の国際化が進んだ近年において、"原産国"の解釈はより複雑化しており、部品レベルでは守られるべきだが、素材レベルでは適用できないという解釈が一般的である。
  • 通常この手の抗議は、レースがスタートした後、抗議旗を掲げることによってなされるが、今回はレース前にはっきりとさせるため、この段階での抗議となったと思われる。
  • いずれにしろ、ISAFによって任命されたジュリーに判断が委ねられるだろう。

としています。

まぁ、個人的にいうと難クセ以外の何モンでもありませんが、実際これらの部分はこれまで曖昧にされてきたのも事実です。後で揉めるぐらいなら、ここではっきりしておいた方がよいかも知れません。ジュリーがどういった判断を示すか非常に注目されます。

ちなみにグラドエル記者は、「3DL」のコンセプト自体はスイスで編み出されたと記しています。「3DL」に関しては、確かノースセールと他のセールメーカー(サブスタッド?クァンタム?)との間で訴訟沙汰となったと記憶しています。もしこの辺りに事情に詳しい方が当ブログのリーダーにおられましたら、ご教示いただけませんでしょうか?

|

« シャーリー・ロバートソン、「BOR 90」に乗る。 | トップページ | Merry Christmas! »

コメント

いつも更新を楽しみにしている1リーダーです。
たしか3DLを最初に作ったのはスイス人かフランス人のはずです。
J24のセールを手作業で作ってノースに持ち込んだとどっかで見た記憶があります。
いまでも3DLの責任者はそのどちらかの人ではないでしょうか。

投稿: セーラーA | 2009年12月23日 (水) 16時22分

セーラーAさん

コメントありがとうございます。

そうなんですが、最初の3DLはJ/24のものだったんですか!私自身J/24に15年以上乗っていたのに全く知りませんでした

私もここ数年J/24の世界から遠ざかっていますが、確か今年クラスルールが改正され、初めて3DLやケブラーが実用化されたとか。J/24からスタートした革新的技術が、ようやく戻ってきたというところでしょうか。

しかし、今回は挑戦艇・防衛艇ともに超巨大ボートですから、一体物のシームレスセイルをつくるのも、大変でしょうね・・・

今後ともコメント宜しくお願いします!

投稿: とんべえ | 2009年12月24日 (木) 14時51分

3DLは2つのコンセプトから成り立っています。
1つはモールドを作りそれに合わせて立体的に作る。
もう1つはストレスに合わせて繊維を配置する。
前者はセイラーAさんが正しいと思います。
後者はサブスタット創設者の1人ピーターコンラッドが発明したフレームセイルと呼ばれたテープをストレスに合わせ補強を入れる物です。その後UKセイルがテープドライブとしてサブスタットにパテント使用料を支払い商品化しました。その後サブスタットはジェネシスセイルとしてクロスをラミネートする状態からストレスに合わせ繊維を配置するセイルを開発しました。その後ノースが前者とアイディアと合わせた3DLを商品化しました。そのためサブスタッドがノースをパテント違反で訴えました。確かパテント使用料をを払ったと記憶してます。サブスタッドとUKのパテントは切れてます。そのため各社似た様なメンブレンセールと呼ばれる物が製作可能となっています。3DLのパテントもそろそろ切れると思います。
ちなみにQuantum はサブスタッドから分かれて作られたセイルメーカーです。ノースのCEOトムウイデンはサブスタッドの創設者の1人です。

投稿: Gみかん | 2009年12月28日 (月) 08時10分

3DLは2つのコンセプトから成り立っています。
1つはモールドを作りそれに合わせて立体的に作る。
もう1つはストレスに合わせて繊維を配置する。
前者はセイラーAさんが正しいと思います。
後者はサブスタット創設者の1人ピーターコンラッドが発明したフレームセイルと呼ばれたテープをストレスに合わせ補強を入れる物です。その後UKセイルがテープドライブとしてサブスタットにパテント使用料を支払い商品化しました。その後サブスタットはジェネシスセイルとしてクロスをラミネートする状態からストレスに合わせ繊維を配置するセイルを開発しました。その後ノースが前者とアイディアと合わせた3DLを商品化しました。そのためサブスタッドがノースをパテント違反で訴えました。確かパテント使用料をを払ったと記憶してます。サブスタッドとUKのパテントは切れてます。そのため各社似た様なメンブレンセールと呼ばれる物が製作可能となっています。3DLのパテントもそろそろ切れると思います。
ちなみにQuantum はサブスタッドから分かれて作られたセイルメーカーです。ノースのCEOトムウイデンはサブスタッドの創設者の1人です。

投稿: Gみかん | 2009年12月28日 (月) 08時11分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: お前んとこのボートはルール違反じゃ - GGYCからSNGへの質問状:

« シャーリー・ロバートソン、「BOR 90」に乗る。 | トップページ | Merry Christmas! »