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2009年12月 1日 (火)

「BOR 90」サンディエゴでの全テストを終了 - バレンシアへ

この週末は色々と忙しく、記事アップが遅くなってしまいました。

さて、先週もお伝えしたとおり、16ヶ月に渡りサンディエゴでテストを重ねてきたBMWオラクルの挑戦艇「BOR 90」は現地時間の11月27日(金)最後の帆走テストを終え、バレンシアへ向けた出荷準備に入りました。

チームの公式サイトに発表された情報によると、この革新的ウィングセイルでのテストは大成功であったということです。

BMW ORACLE Racing: Testing concludes in San Diego.

「BOR 90」担当ヘルムス ジェームス・スピットヒルのコメント:

「僕らは今最終コーナーを立ち上がり、最後の直線に入っている。」

「対戦まで丁度2ヶ月余り、このテスト最終セッションにおけるセーリングの一瞬一瞬が、僕らにとってとてつもなく価値あるものだったよ。ウィングセイルを得たボートは更にパワフルになった。この最終セッションを通して、一体ウィングは何が出来るのかを学ぶことができたよ。」

この日の午前中、現地サンディエゴは風が弱く、外洋から濃い霧も押し寄せていた為、「BOR 90」はハーバーで待機を強いられました。

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Photo Copyright Kazenotayori

一見快晴に見えますが、遠方に見えるコロナドブリッジの向こうは深い霧に覆われていました。

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光の加減により収縮性航空機用フィルム素材(Shrinkable Aeronautical Film)と公表されているウィング外皮の質感をご覧いただけます。決して"ツルツル"な素材ではありません。

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ウィング基部のアップです。この巨大なウィングはたった一つのピボットによって支持されています。また2週間のテスト中セーリングを突如中止し、海上でウィングの表皮を剥がして内部を点検するというトラブルがありました。それ以降、写真左のように点検用のウィンドウが追加されています(どうやらファスナーで開閉可能のようです)。

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しばし"羽休め"・・・

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でもクルーは忙しく出艇準備に追われていました。

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そういうときに限って、官憲の邪魔が入るんですよねぇ

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さて、このウィング、サイドステイが例のエンジン/油圧システム&パワーウィンチと連結されていて、

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海上でも自在に垂直角を変更できます。

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反対側にもこの通り。

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なぜそんなことをしているかというと、弛ませた下側のテンションシステムの確認をする為でした。

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8枚のフラップの各上端部には板状のブラケットがあり、ワイヤーが繋がれています。このワイヤーによって各フラップの角度が調整されることになります。

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Photo Copyright SFJ/Sailing Anarchy

各フラップは完全に切り離されているわけではなく、それぞれの下端部が1段下のフラップの上端部と連結されています。また各フラップは完全な剛体ではなく、一定のねじりを許容する構造となっているので、その為各フラップの角度が異なっていても、後ろから見ると連続したリーチカーブを描いているように見えるわけです。

さて、天候が好転した午後1時過ぎ「BOR 90」は出艇し、感謝祭の連休でごった返すサンディエゴベイの中、片ハルを浮かせながら縦横無尽に走り回ります。恐らく10ノットも吹いていないようなコンディションでしたが、恐るべきスピードを見せ付けます。

その模様を動画でお見せできないのが残念ですが、幸いにして地元TV局 FOX 5 San Diego がライブカムでも実況していました。下記はセーリング・アナーキーのACフォーラムにアップされた、FOX 5 の映像です。

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同じスピードで走っているチェイスボートと、曳き波が全然違うことに注目ください。

BMWオラクルの公式ブログによると、センターハルが水面についている"半"フライング状態でも、20ノット以上のスピードをマークしていたということです。

BMW ORACLE Racing Blog: That's a wrap

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さて、こうしてサンディエゴでの最終セーリングを一気に終えた「BOR 90」はベースへ戻り、バレンシアへ向けた出荷準備に取り掛かります。

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まず、いつものようにマストを左舷側へ倒し

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センターハルの両舷をボートで挟みながら、ハーバーへ押していきます。

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ウィングマスト基部のジョイントにはマスト倒し用の補助ブームを抱き合わせられるようになっています。また8枚のフラップを操作するコントロールワイヤーは、このように最下段フラップでまとめられています。この中にコントロールシステムが存在しているのでしょう。どうやらメインエンジンを止める場合、ポータブル発電機(ホンダ製)で電力を供給することになっているようです。

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右舷側のアマ。

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ピンボケですがセンターハル(ヴァカ)。

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左舷側のアマ。

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先日お伝えしたスーパーヨット「Zenji」の前を横切って接岸します。

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バウスプリット基部。あ、アシックスの運動靴だ

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写真でどこまでお伝えできるかわからないのですが、現物はとにかく、とてつもなく巨大なボートです。

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サンディエゴには今でもACボート3艇が観光用として稼動していますが、この「BOR 90」を見慣れてしまうと、正直に言ってACボートすらスモールボートに見えてしまうほどです。このデカさが少しでも伝われば良いのですが・・・

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ウィング基部をスターン側から見ました。ウィング前端の肉厚はかなり薄そうです。先日コメント欄でも書きましたが、ウィングそのものはソフトセイル用のマストより華奢に出来ているのかもしれません。

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接岸作業もスピットヒル自身が各部を無線で指示しながら進められました。

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あたりはすっかり暗くなってきましたが、こうして無事接岸終了。

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Photo Copyright Kazenotayori

すると、チームスタッフがやってきて、ハーバーで作業を見守っていた我々にポスターをプレゼントしてくれました。スタッフの中に広報担当のジェーン・イーグルソンがいたので声を掛けたところ「あなたが連絡をくれた日本人ブロガーね。来てくれてありがとう。さぁ、たっぷり見ていってね。」と歓迎してくれました。

さて、このとき他のスタッフから色々と話を聞きましたが、主な要点としては

  • ウィングセイルとソフトセイルの比較した結果、ウィングの方がかなり効率がよく、セイルエリアが小さいにも拘らずスピードも出ることが確認できた。
  • テスト期間中「BOR 90」は40ノット以上をマークした(余り風の吹かないサンディエゴにも関わらず)
  • アメリカスカップ本戦でウィングセイルを使うか、ソフトセイルを使うかは、まだ判らない。
  • アリンギのバタワースは防衛艇にウィングセイルを導入する予定はないと語っているが、オラクルとしては間違いなくアリンギもウィングを準備していると考えている。
  • アリンギは依然中東での開催を主張しているが、法廷は認めないだろう。
  • 裁判所からの何らかのアクションが来週(11月29日の週)にあるだろう。

ということでした。

ウィングが何故それまでも効率が良いのかに関して、明快な情報は得られませんでしたが、風を"受ける"ことによってセイルシェイプを形作るソフトセイルに対し、ハードウィングセイルは風を"流す"だけでよく、恐らく抗力(ドラッグ)がずっと小さいと思われます。また、今回のフラップはメインウィングとの間に間隙のあるスロッテッドフラップとなっているので、低ドラッグという点でさらに有利となっているはずです。従って、いわゆる揚抗比がソフトセイルと比べ大幅に良いと思われます。

これが、以前当ブログでもお伝えしたスティーブ・クラークの解説通り、浸水表面積が小さく抵抗が少ないというマルチハルの特徴と相乗効果となって、信じられないようなスピードを実現できるのではないかと思います。実際フライング時に接水しているのは、あの細いアマだけですから、ハル側の摩擦抵抗もかなり小さいはずです。(下記ご参考)

かぜのたより アメリカスカップ情報編: スティーブ・クラークによるアリンギ、BMWオラクル双方のマルチハルに対する技術的考察

またYouTubeにアップされている「BOR 90」の帆走シーンを見ると、ウェーブピアーシングバウの効果で、ややバウダウンの姿勢を保ちながらピッチングを上手く抑え、海面を切り裂くように走っていることが判ります。

正にクラークの言うとおりの開発アプローチをとっているといえるでしょう。

さて、この最終セーリングの翌日11月28日、サンディエゴは数ヶ月ぶりに本格的な雨が降りました。その中、ハーバーではウィングの取り外し、更には「BOR 90」の上架作業が行われました。

BMW ORACLE Racing Blog: Wet in San Diego

BMW ORACLE Racing Blog: Getting ready to take out the wing

BMW ORACLE Racing Blog: Down and out

BMW ORACLE Racing Blog: On the hard

さらに今週に入り、上架された「BOR 90」の出荷準備が着々と進められています。

BMW ORACLE Racing Blog: Getting ready to ship out

このように、まもなくこのモンスターはサンディエゴを去ってしまいますが、ここまで見守ってきた相手とこのまま別れてしまうのは忍びなく、是非アメリカスカップでの闘いぶりをこの目で見てみたくなってしまいました。

というわけで、バレンシアのホテルを予約してしまったブログ主とんべえでした

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Photo Copyright: Kazenotayori

頑張れ!BOR 90!(お土産にもらったポスター)

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コメント

サンジエゴでの、BOR90のつぶさなレポートありがとうございました。おかげさまで、すっかりBOR90のファンになってしまいました。
バレンシアですかー。羨ましいです。
ホテルばかりでなく、観戦ボート(いいポジションに付けてくれる有力なやつ)を予約・確保されると更に興奮します。メディア用ボートに乗れると最高。

投稿: dragon | 2009年12月 1日 (火) 16時42分

わぉ!
サンディエゴレポートに引き続き、バレンシアからのレポートも楽しみにしてますねぇ

・・・って、でも気が早い気がしないでもないですが(^_^;)

投稿: YUTA | 2009年12月 2日 (水) 06時14分

dragonさん、こんにちは!

いやいや、今回は超低予算旅行を考えていて、ホテルもウェブから安~いのを探して予約しました。あとは仕事を休めるように段取りするのが大変です・・・
観戦ボートも事前に予約できるといいんですが、まだバレンシアで確定したわけではありませんし、ちょっと様子見です。

メディアボート、いいですねぇ~。
このブログがどこかのメディアの目にとまって、メディアパスを支給してくれませんかねぇ。渡航費と滞在費は自腹で出しますから

投稿: とんべえ | 2009年12月 2日 (水) 23時25分

YUTAさん、こんにちは!

そうなんですよね、決してまだバレンシアと決まったわけではないんですが、でもホテルの予約って結構ギリギリまでキャンセルが利くので、とりあえず宿を確保!ってなカンジです

格安航空券はキャンセルが利かないので、こっちは確定するまで手を出せません

投稿: とんべえ | 2009年12月 2日 (水) 23時26分

それは日本だったら舵にねじこむんですかねえ。。
高橋さん行かないんですか?お供します 攻撃とか・・・(笑)

投稿: まなてぃ | 2009年12月 3日 (木) 00時57分

まなてぃさん、こんにちは!

いやいや、専門誌はちゃんとした取材体制をとられるでしょうから、私のような素人が出る幕ではないと思います。所詮アマチュアブロガーですから・・・

それより、素人のレポートを採用するかどうかわからないけど、特派員を送るつもりもないから、プレスパスの申請ぐらいはしてあげるよ・・・というような心優しいメディアがおられないかなぁ~なんて都合よすぎますね。

今回は妻子を置いていくことにしました。一人旅は久しぶりですが、気兼ね無く趣味に没頭できそうで、それはそれで楽しみです。

投稿: とんべえ | 2009年12月 3日 (木) 09時35分

とんべえさんのお蔭で次回AC事情を得る事ができました。ありがとうございます。

引き続きよろしくお願いいたします!!

メディアパスGETご健闘お祈りしています!

このブログで情報を得ているメディアの皆さん協力MUSTですよ! 

投稿: Yasu.F | 2009年12月 3日 (木) 18時32分

Yasuさん、ありがとうございます。

ともかくこれからもカップの話題を追っかけて行こうと思いますので、こちらこそよろしくお願いします。

投稿: とんべえ | 2009年12月 8日 (火) 10時02分

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