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2010年2月 4日 (木)

Is he desperate? - 「アリンギ5」のヘルムスはベルタレリ自身

未だアリンギからの正式な発表はありませんが、AFPによると、アリンギのオーナー兼代表であるエルネスト・ベルタレリは、自分自身で防衛艇「アリンギ5」のヘルムを握り第33回アメリカスカップに出場すると語ったいうことです。

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バレンシアにおいてアリンギ5のステアリングを握るエルネスト・ベルタレリ Photo Copyright: George Johns/Alinghi

AFP: Swiss billionaire Bertarelli to take Alinghi helm

この記事の中でベルタレリは「私がやるつもりだ。私にはアリンギ5のステアリングを握るに充分なスキルと経験があると思っている。今回のアメリカスカップで、私自らステアを握ることは光栄であり、また喜ばしいことでもある」と語っています。

実際エルネスト・ベルタレリは地元スイスのレマン湖で20年近くマルチハル艇に乗ってきた経験があり、昨年7月の進水以来、防衛艇「アリンギ5」のテストセッションにも絶えず参加してきました。

スイス・レマン湖におけるシェイクダウンテストで、アリンギ5のステアリングを握るエルネスト・ベルタレリ Copyright: Alinghi TV

また、彼自身アリンギのアフターガードの一員として実際にボートに乗り組み、過去2回アメリカスカップに勝利しています。

従って、彼のスキルと経験が、そこいらのアマチュアレーサーのレベルではないことは確かですが、それでもキラ星の如くトップセイラーが揃ったアリンギで、前回アメリカスカップのウィニングヘルムスであるエド・ベアードや、マルチハルの達人ロイック・ペイロンらを差し置いて、なぜオーナー自ら大事な一戦のヘルムをとらねばならないのでしょうか?

私が思うに、これはもうベルタレリの"意地"なのでしょう。

というのは、本来アメリカスカップの防衛者には、カップの憲法たる「贈与証書」によって、圧倒的な特権が認められていました。即ち、「対戦は防衛者側のルールで行われる」「挑戦者は可及的速やかに挑戦艇のスペックを提示しなければならないが、防衛者はスタートの直前まで防衛艇の変更が認められている」等々であり、これらの特権を巧みに操り130年に渡ってカップを防衛してきたのがニューヨーク・ヨットクラブであったのです。

ところが今回BMWオラクルが起こした訴訟の結果、「贈与証書」の管理者であるニューヨーク州最高裁判所の命令により、本来防衛者が有していたはずの特権はことごとく剥奪され、自らが選んだ対戦地も変更を余儀なくされ、挙句の果てに世界中のチームが使用しているノースセールの「3DL」すら取り上げられようとしてきました。

そして、同裁判所の指導の下、ISAFが指名した第33回アメリカスカップのインターナショナル・ジュリーは、昨日アリンギにとって非常に不利となる審問結果を下しました。(元々アリンギが発表した第33回大会の運営議定書では、ジュリーのメンバーもアリンギが選べることになっていました。)

ベルタレリにしてみると、アメリカスカップを奪われて15年になろうとする米国人たちが、その司法制度を最大限利用して、本来防衛者に認められていたはずの圧倒的特権を悉く奪い去り、今度はカップまで自分の手から奪おうとしている。

そこまでしてカップを自分たちの手に取り戻したいのであれば、好きにすれば良い。その代わり挑戦は俺自身が受けてやる。その結果、たとえカップを失うことになっても・・・という心情なのかもしれません。

そう考えると、折角ブラッド・バタワースがシンガポールまで出向き、まとめようとしていた合意(レース数を増やすことや、風速に上限を設けること等が含まれていたと思われる)を、自分の一存で撤回させ、贈与証書に則った対決へ突き進むことをベルタレリが選択したのも納得がいくような気がします。

今、彼は四面楚歌の状況にいると感じているのかもしれません。

少し前のことですが、そんな彼の心情を良く表したインタビュー記事がありますので、ご紹介しようと思います。シーホースというセーリング情報サイトがベルタレリに対し行った単独インタビューです。

Seahorse International Sailing: Setting the Scene

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シーホース (以下SH): あなたがアリンギ5の建造を決意した時、設計段階でこのようなボートになると思われましたか?

エルネスト・ベルタレリ(以下EB): 我々がアリンギ5の建造を決めたのは、90フィートのモノハルを使った次回アメリカスカップの開催が不可能となった時だった。ご存知のとおり、オラクルのせいで我々はマルチハルでの一騎打ちを行わなければならなくなった。そこで、我々はレマン湖での経験を生かすことにしたんだ。こんな巨大なカタマランを建造するなんて、想像もできないような悪夢だったけど、レマン湖上で初めてアリンギ5を走らせた時は、何ともいえない達成感があったよ。

SH: あなたのマルチハルでの経験は、アリンギ5の設計にどれほど生かされましたか?

EB: 私には殆ど20年に渡りレマン湖でマルチハルに乗ってきた経験があり、その間もボートスピードをアップするため、毎年何か新しいことをしてきた。マルチハルの良いところは、既にモノハルではできないような開発の余地が残されている点だ。そして、過去3度に渡るアメリカスカップでの経験を活かした開発ツールを使うことによって、レマン湖上での小さなボートを基にあれこれ想像するよりも、より具体的な回答を得ることもできる。開発と言う見地からいうと、今回のプロジェクトはとんでもなく面白いね。

SH: アリンギ5の開発には、どのくらいスイスのテクノロジーが生かされているのでしょうか?

EB: アリンギ5は"スイス製"だ。例えば、Y字型のバックボーンフレームはレマン湖上で考え出されたコンセプトだ。もちろん過去のアメリカスカップにおける経験も生かされているが、アリンギ5の基本コンセプトは、あくまでスイス製だ。多くのプロジェクトからえられた様々な要素を纏め上げ、物凄いマシーンをスイス・ビルヌーブで一から建造することができた。

SH: アリンギ5を走らせるのは、D35や41フィートカタマランである「ル・ブラック」での経験をスケールアップするような感じですか?

EB: 驚いたことに、アリンギ5は私が過去にレースをしてきたマルチハルと大きく変わらなかった。アリンギ5は非常にレスポンスが良く、スピードやパワーに素早く対応しなければならない。ボートのサイズ故に、あらゆるスケールが劇的に大きいけど、このボートを走らせることが楽しくて安全だということを確認するのに足る充分な経験をチームは積んできた。この手の巨大マルチハルによるアメリカスカップがどういったものになるのか、色々と言われているけれど、実際に乗った者でなければ、本当の楽しさや素晴らしさは理解できないね。実際にこの手のボートでカップを戦った者だけが、それを語る権利があるんだ。

SH: あなたが自らヘルムを取っているところも度々目撃されていますが、どんな感じですか?

EB: 私がこれまで乗ってきた他のマルチハルとアリンギ5との最大の違いは、ティラーではなくステアリングで操作しなければならない点であり、これにはちょっと慣れが必要だね。それから、小さいボートよりは多少重たく感じるかな。でも、ワクワクする感じやスピード感、それに高くフライングしている感覚はもっと大きいよ。ボートに乗っていてこんなに楽しいことは今まで経験したことがないくらいだ。

SH: クルーはどのように選ばれるのですか?

EB: 我々が勝利した過去2回のアメリカスカップと同じ方法で行こうと思っている。基本的にはスキッパーであるブラッド・バタワースが決めることになる。我々は元々モノハル艇でレースをするつもりでいたが、結局エンジン付きの90フィートマルチハルで対決することになったから、クルーの数を絞らなければならない。この手のボートでマッチレースを闘うには、エンジンは不可欠だよ。またキャンペーンを進める過程で、特にフランスの外洋マルチハル界から新しいスタッフをチームに招聘することにした。彼らがどんなことをしているか直接見ながら、彼らの経験を学ぶためにね。

特にロイック・ペイロンとは以前から知り合いだったし、アラン・ギューターとは最近D35のレースを通じて知り合った。私は彼らと頻繁にレマン湖上でレースをし、いつも凄い連中だと思っていた。私個人の経験から、彼らとスタートラインで対面することは容易でないと知っていた。一方、エド・ベアードも前回アメリカスカップでアリンギに勝利をもたらしてくれたし、ここ数年間マルチハルでも多くの成功を納めている。こういった多くの才能あふれるセーラーの中から、対戦に最も適した人物を選ぶことにしている。

SH: オンボードの情報をリアルタイム収集し、セーリング終了後、解析の為データを陸上へ持ち帰るとのことですが、一体どのようなシステムなのでしょうか?

EB: セーリング中オンボードで実際に感じとり、それが実際には何だったのか、陸上でデータを見ながら確認できるのは、本当に素晴らしいよ。データは絶対ウソをつかないから、オンボードで感じたことが正しかったかどうか、また、それは如何にして起こったのかを確認できるのは有難いけれど、一方で、いつもきちんと状況を見ておかねばならないというプレッシャーを乗り手にかけることにもなる。

SH: これら分析結果の優先順位はどのようにつけ、またどのような対策をとるかという意思決定は、如何にして行われるのでしょうか?

EB: アリンギでは、対策は皆で決めることにしている。我々は打ち合わせを行い、計画をたて、その計画はチームのメンバーに分担され、各自与えられた仕事に責任を持って取り組み、より良い改善策やデータ、情報を持って戻ってくる。そして、再び打ち合わせを行い、次のステップへ進むんだ。これは皆で一緒になって進める反復作業であり、そこに隠し事は存在せず、情報はいつも共有される。だから、意志決定は単純明快なんだ。だって、大抵の場合、皆が同意するからね。

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アリンギチームの面々。最前列左からブラッド・バタワース(スキッパー)、エルネスト・ベルタレリ(オーナー)、グラント・シマー(設計責任者) Photo Copyright: Guido Trombetta/Alinghi

SH: レースの現場と開発部隊が一緒になって仕事をされているというわけですね。対戦相手の動向についても気を配ってこられましたか?

EB: 我々はいつも他のチームにも気を配ってきたよ!我々が2007年カップ防衛に成功した時も、全ての挑戦チームに対し配慮していたし、2007年の12月には、我々が提示した第33回アメリカスカップのプロトコル(大会運営議定書)に12チームがサインし、多くのスポンサーとも契約条件で合意して、大会を進める準備が出来ていたんだ。更に2008年の12月には、12カ国からの19チームが第33回大会の方針に合意していた。たった1チームを除いてね! 唯一BMWオラクルが提訴を取り下げず、他のチームに合流しようとしなかったため、我々が進めていた第33回大会が頓挫してしまったんだ。更に法廷闘争を通し、連中は自分たちのやり方を押し通して挑戦者代表に納まり、今度は我々に贈与証書に則った一騎打ちを仕掛けている。そこには相互の同意なんて存在せず、ただあるのはウンザリするほどの法廷闘争だけだ。ここまでにも8度に渡って法廷で争わねばならなかった。これはまさしく不幸な状況といわざるを得ないが、それでも、いつも前を向いて進んできた。クルーをボートに乗せて、信頼できるスタッフを守りながらね。

SH: 第1レースの朝どんな気持ちが表現してみてください。過去にこんなことを想像したことはありますか?

EB: 第1レースの朝は、アメリカスカップに勝利した過去2回とも、それぞれ異なるものだった。だから、多分今度も今までとは違うものになるんじゃないかな。体からあふれるような強い感情と大きなプライドが、そこにはある。チームとして一丸となってレースに臨むのは、本当に価値あることだよ。アメリカスカップに出場することは特別なことであり、この上ない幸せでもある。そして、2003年我々がそうであったように、正当な挑戦者となるためにはチャレンジャー・セレクションシリーズを勝ち抜き、カップへの挑戦権を獲得しなくてはならない。対戦を通して勝ち取るのが、カップの本来あるべき姿だ。

SH: もし今回アリンギが勝利した場合、第34回アメリカスカップをマルチハルで開催したいと思いますか?

EB: もし我々が再び勝利し、BMWオラクルとの法廷闘争から解放されたときは、最先端のテクノロジーを凝縮したボートを使い、多国から多数チームが参加する形でのアメリカスカップを開催したいと思っている。

SH: 将来アメリカスカップ以外に、どんなセーリングをしてみたいと思いますか?

EB: いわゆるグランプリ・セーリングは、どれも大好きだよ。地中海サーキットも楽しいけど、でも特にレマン湖でのマルチハルレースが好きだな。でも、今はカップを防衛することに100%集中しているし、ボートの開発作業を毎瞬楽しんでいるよ。我々はマルチハルを新しいレベルに進化させようとしているところであり、もっと脚光を浴びる存在にしたいと思っている。

SH: 今までとは違う何かをするということでしょうか?

EB: 我々が史上最も驚くべきボートを建造した一方で、皆さんに覚えておいて欲しいことがある。BMWオラクルが如何にプロパガンダしたところで、今回のマルチハル対決は米国の裁判制度を駆使した彼らの策略の結果なんだ。我々は彼らに何度となく他チームと合流するチャンスを与えてきた。2003年から2007年に掛け、我々は史上最も成功したアメリカスカップのイベントをヨーロッパ中でオーガナイズしてきた。我々は最終的に対戦相手となったチーム・ニュージーランドに資金援助すらしたんだ。バレンシアでの対決をより良いものとするためにね。第33回アメリカスカップを同じようなものか、或いはもっと素晴らしい、多くの国から多くのチームが参加し、一般の人々やスポンサー、メディアにも、もっとオープンで接してもらい易い大会とすることが、私の望みだった。今回は実現できなかったけどね。

我々は「急いては事を仕損じる」ということを学んだ。もし我々が勝つことができたら、第34回大会は第32回大会同様、素晴らしいものにするつもりだ。

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さて、今日現在の天気予報は以下のとおりとなっています。

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やはり、いい風が期待できそうです!

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