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2010年2月 3日 (水)

No wind limits for the 33rd America's Cup - スタートの判断はレース委員会に!

昨日もお伝えした第33回アメリカスカップのインターナショナル・ジュリー(IJ)による審問は、アリンギにとって厳しい結果となりました。

今回の審問は挑戦者ゴールデンゲート・ヨットクラブ(GGYC:BMWオラクルの所属母体)の抗議によって開催されたもので、防衛者ソシエテ・ノーティーク・ドゥ・ジュネーブ(SNG:アリンギの所属母体)が発表した第33回アメリカスカップのレース公示及び帆走指示書における以下の5項目についての是非をIJに問うものでした(審問を求めるGGYCのステートメントへのリンクは以下のとおりです)。

GGYC Statement: SNG's Biased Notice of Race and Sailing Instructions Riddled with Errors; GGYC has filed for redress from the International Jury.

  1. ニューヨーク州最高裁判所が本大会での適用から外すという判決を下したに関わらず、ISAFセーリング競技規則(RRS)53 「表面摩擦」を復活させた。
  2. 贈与証書は防衛者と挑戦者の相互合意を求めているのに関わらず、レースのスタート時間を一方的に設定した。
  3. 防衛艇に有利となる風速と波高の制限を一方的に設定した。
  4. 現在BMWオラクルが使用中である風検知器に関し、以前のレース公示草案では使用が認められていたにも関わらず、最新版では使用が禁止された。
  5. 適用ルールの優先順位が修正され、双方が論争となった場合はレース公示、並びに帆走指示書がRRSより優先されることとなった。これは通常のヨットレースの常識から極めてかけ離れたものである。

ここで出てくるRRS 53は、特殊な方法を使って艇の表面摩擦を改良することを禁止したセーリング競技規則の条項で、内容は以下のとおりです。

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Rule 53 - Skin Friction

A boat shall not eject or release a substance, such as a polymer, or have specially textured surfaces that could improve the character of the flow of water inside the boundary layer.

規則 53 - 表面摩擦

艇は、ポリマーのような物質を噴出させたり、放出させたりしてはならない。また、境界層の内側の水流の特性を改良し得るような特殊構造の表面を用いてはならない。

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つまり、今回BMWオラクルが防衛艇「USA」に導入した「表面摩擦改良システム」はモロにRRS 53に違反しています。

しかし、一方でSNG側は、防衛艇「アリンギ5」を軽風スペシャルとして仕立てる為、エンジンを搭載し、その動力をパワーウィンチと可動式ウォーターバラストに使用することによって、クルーの人数を削減、ボートの総重量を抑えることを計画しました。さらに、これを実現するにはISAFのルールが障害となった為、BMWオラクルとの法廷闘争の過程で、RRS 49~54を第33回アメリカスカップのルールから外させる判決を、ニューヨーク州最高裁で勝ち取っていました。

従って、今回BMWオラクルはこの判決を逆手にとったことになります。

さて、これらBMWオラクルの抗議に対するIJの審問結果は以下のとおりです。

  1. 「USA」は「表面摩擦改良システム」を使用できる。
  2. レースのスタート時間はSNGが決定できる。
  3. 風速・波高の制限は無効。レース有無の判断はレース委員会に委ねられる。
  4. 「USA」は風検知器を使用できる。
  5. 双方が論争となった場合は、贈与証書を最優先する。

なお、審問結果の原文は以下のとおりです。(もしIEでうまく表示されない場合は、「インターネットオプション」>「プライバシー」>「詳細設定」で「自動 Cookie 処理を上書きする」をオンにすると改善されると思います。)

ということで、風速・波高の制限は無くなり、全てはレース委員会の判断に委ねられることとなった上に、BMWオラクルの秘密兵器は、みな使用が認められることにました。

この裁定に対し、アリンギは公式サイトにおいて、「レース開始の判断はSNGのレース委員会に委ねられることとなった」としています。

Alinghi: Further clarity for the 33rd America's Cup Match

しかし、2年半の法廷闘争の結果、レース委員会のメンバーもISAFの強い関与により公平は人選がなされていますので、実質的にはSNGの意向に関わらず、極めて常識的な判断の下、レース有無の決定が下されることになるでしょう。

ちなみに余談ですが、元々2年半前にアリンギが発表した第33回アメリカスカップ運営議定書(プロトコル)では、レース委員会の選任・解任はアリンギが自由に行えることとなっていました。つまり、自身の息が掛かった人選が可能だったのです。しかし、同時にこれが2年半の法廷闘争の原因のひとつとなっていました。

長い法廷闘争の結果、公平なレースが運営されるようになったともいえますが、カップ保持ヨットクラブであるSNG/アリンギとしては、自身の主催する大会のレース委員会すら自由に選べないという結果にも繋がっています。

カップ保持者であるエルネスト・ベルタレリ(厳密にいうとカップを保持しているのはSNGであり、ベルタレリ個人ではありませんが・・・)としては、軽量スペシャル「アリンギ5」を建造し、超微風地帯である中東ラアス・アル・ハイマでカップを防衛すると言う当初の目論見が完全に崩れた上に、最後の頼みであった風速制限も排除されてしまうという、踏んだり蹴ったりの結論となりました。

きっと"公平なルール"の名の下、元来カップ防衛者に許されてきた特権が全て剥奪されてしまったように感じていることでしょう。

とにかく、これでレースに向けた準備が整いました。さて、来週のバレンシアの天候はどうなっているでしょう?

Vlc_wind

まだまだ先の予報ですし、数日前にはベタの予報が出ていたので当てになりませんが、今のところ、いい風が吹きそうです!

対戦が楽しみになってきました!

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コメント

高い風域でレースが行われると、迫力の映像が見れそうですね!
ヘリからじゃないと映像撮れないですよね・・・きっと。

これだけスピードが速いと、一旦差をつけられたように見えても、スピードが速いので、すぐに逆転なんてことも考えられますね。
なにしろ1レグ20マイルとして、両艇が左右に離れると5度のウィンドシフトでも凄い差になります。(正確な差は計算してみてください(笑))

こういった展開が本来のヨットレースかも知れませんね。


絶対的に速い艇を、どんだけ金がかかっても良いから造れ!
あいつらには負けるな!

巨大な意地と意地のぶつかり合い
長さと幅だけを決め
ルール無用のスピードレース!
危ないので無視って訳にはいきませんが・・・

誰が速い艇を造り、誰が一番早く走らせるか!


これまでのACクラスは重たくしなければならず、大きさの割にひどく遅かったですからね。

両艇が絡み合うのが面白いとされている
現代のマッチレースが変わるかも?知れませんね。

投稿: Yasu | 2010年2月 3日 (水) 18時54分

Yasuさん、いつもコメントありがとうございます!

なるほど、ボートスピードが速いから、あっという間に決着が着くかと思っていましたけど、逆にちょっとしたワンミスで大逆転という可能性もあるわけですね。

ともかく、風速の制限が取れて、本当に迫力ある映像が期待できそうです!
あとは充分な風を期待するだけです。

いや本当に、ある意味ルール無用の対決。制限枠を超えた、真の決闘という感じですね。
確かに新しい扉を開いてくれそうな、そんな期待を私もしてしまいます。

投稿: とんべえ | 2010年2月 5日 (金) 12時47分

当初のアメリカズカップは大富豪同士の意地の張り合いだったみたいですから、
ある意味本来のものになってるんでしょうかねえ 笑

ヨットも含めてテレビ写りがどうなるか?がその競技の命運を決めてしまうご時勢に
あって、うまく進化させられるといいですねえ。

投稿: まなてぃ | 2010年2月 6日 (土) 01時00分

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